行政や自治体のクラウドファンディング支援例(佐賀県有田焼編)

当ラボでは、
ユニークなクラウドファンディング・プロジェクト(案件)を
主観的にではありますがピックアップ。
事例分析記事としてまとめています。

今回は1つの事例を分析するというよりは、
自治体が補助金制度を導入し、
地元産業を促進
するため、クラウドファンディングを活用する

取組みを分析してみました。

最近は、自治体がクラウドファンディングの運営に自ら取り組むケースや、
クラウドファンディング運営会社と提携するケースもあちこちでみられるようになり、
当ラボでも相談をうけるケースが増える傾向にありまして、
早速、事例として取り上げてみました。

今回の事例としては、佐賀県を代表する伝統的産業「有田焼」の創業400年を記念し、
有田焼の事業を促進するために、佐賀県は政策の一環として、
クラウドファンディングへの支援制度を導入。
地元、有田焼業界によるクラウドファンディング活用を、
補助金交付により支援する、ユニークな取り組みについてご紹介します。

I.  佐賀県『クラウドファンディング利用促進事業補助金』

1)概要と目的

有田焼(伊万里焼とも呼ぶ)は
日本で最初に生まれた磁器で、佐賀県有田町を中心に産出されています。

世界的にも人気と知名度は高く、
2016年(平成28年)には創業400年を迎えます。

そんな有田焼をさらに盛り上げるために
佐賀県が2014年度より実施しているのが、
『クラウドファンディング利用促進事業補助金』制度。

有田焼の新商品開発や販路開拓など、
新たな事業資金の調達を目指す団体等に対して、
「クラウドファンディング運営サイトを活用し、
資金調達をすれば、経費の一部を補助しますよ」

というのが、この補助金制度です。

有田焼創業400年事業では、
インターネットを通じて不特定多数の者から事業資金を調達する
「クラウドファンディング」を導入・活用することにより、
産地事業者取り組む、商品開発等のプロジェクトについて情報発信を行い、
国内外における有田焼ファンの掘り起こしを図るとともに、
持続的なイノベーションを支援する仕組みづくりに取り組むこととしています。

佐賀県 ホームページより引用

 

ちなみに、当記事執筆時点での採択件数は、3件程度だそうです。

2) 背景

この補助金制度は、単発の取り組みとして導入されたのではなく、
佐賀県が推進する「有田焼創業400年事業」の一環として進められています。

2013年9月に公表された、有田焼創業400年を迎える2016年に向けた事業プランによると、
「有⽥焼創業400年」を⼀過性のイベントとして終わらせることなく、
次の100年に繋げる機会としてどう活かすか?をまとめた内容になっています。

「有田焼創業400年事業/佐賀県プラン」
https://www.pref.saga.lg.jp/web/var/rev0/0164/1828/2014924224319.pdf

現在、事業を推進する
「佐賀県有田焼創業400年事業実行委員会」が中心となり・・・

・世界最大の国際見本市「ミラノサローネ」への出展
・地元生産者と外部の有識者が議論し合う
「ARITA VALUE CREATION LAB-有田焼価値創造研究処-」の開催
・世界トップシェフの高級レストランに有田焼を利用してもらい、海外向けのPRに繋げる
・地元の酒蔵とコラボした酒器の開発

など、色々な取り組みが行なわれており、これらの取り組みの中の一つとして、
クラウドファンディング活用を促進する制度も導入されているようです。

3) 補助金の対象

補助金交付の対象となるのは、
クラウドファンディング運営サイトを活用し
新たな事業資金を調達しようとしている有田焼産地の団体など。

クラウドファンディング・サービスを提供している運営会社は多くありますが、
どこのサイトを利用できるのか?については
『佐賀県有田焼創業400年事業実行委員会』が推薦する、
クラウドファンディング運営サイト、となっています。

調べてみると、現時点で活用している事例を見ると、
ファンド型のクラウドファンディングサイトである
セキュリテ(ミュージックセキュリティーズ株式会社)を活用している模様。

 

「購入型」と「ファンド型」の違いについては、以下の過去記事もご参考に。
寄付型、購入型、投資型・・報酬形態で4種類に分類されるクラウドファンディング(原則編)

4) 自治体による補助金額

では、自治体による補助金額はいくらなのか?興味ありますよね!

補助金額の対象となる費用は・・・
プロジェクト・オーナーさんがプロジェクトを運営サイトに掲載する以前、
すなわち、資金調達の募集開始するまでに必要な経費のうち、
2分の1(ただし最大810,000円まで)が補助金として交付されるとのことです。

他に、以下の制約もあります。

・ファンド運営手数料を除く
・監査実費を除く
・同一団体等への交付は1回まで

運営会社のミュージックセキュリティーズ株式会社
どのような料金体系を取っているかは、公表しておりませんので
ここでは、具体的な数字を挙げることは避けますが、

「ファンド型」は「購入型」クラウドファンディングとは異なり
プロジェクト掲載開始までに、初期費用として事前に一定の金額が必要になります。

例えば、プロジェクトの財務関連情報の分析(損益分岐点分析)や、
デューディリジェンスと呼ばれる、
金融取引時にはよく行われる調査手続き等が行われるため、
「購入型」プロジェクトの場合には、成功時だけに発生する、成果報酬部分に対する手数料だけでなく
プロジェクトの成功・不成功に関わらず、
必要となるアップフロント(事前必要)経費が発生してくるので、
本補助金ではこういった、初期費用など、
プロジェクトオーナーが資金調達を開始する前に、負担となる費用を
代わりに自治体が負担。
有田焼業界がクラウドファンディングを積極的に活用することを支援し、業界活性化を促進する・・
という流れを目指しているようです。

II.  補助金対象となった採択プロジェクトは?

そして、実際に採択されたクラウドファンディングのプロジェクトは?
というと・・・
以下の2事例がすでに、ミュージックセキュリテ社のサイトでプロジェクトを掲載。
どちらも資金調達に成功しています。
その2つを、以下にご紹介します。

プロジェクト その1:
有田焼 UTSUWA美ファンド

http://www.musicsecurities.com/communityfund/details.php?st=a&fid=954

本プロジェクトは、
「電子レンジまたはオーブンで調理した後そのまま食器として使用できる」という
有田焼うつわの製造&販売の為の資金を、調達しています。

調達資金は、製造するうつわの型代および素地代に利用されるそうです。

top
出典元:セキュリテ(ミュージックセキュリティーズ株式会社)

国/都道府県 国内/佐賀県西松浦郡有田
運営サイト セキュリテ
調達型 ファンド型
業界/セクター 製造業/商品開発・販売
掲載時期 2015/2/25~2015/7/31(募集早期終了)
目標設定額/達成金額/支援者数 1,710,000円 / 1,710,000円 / 24人
一口金額 31,710円
ファンド運営期間 2015年3月1日~2015年10月31日
収益分配のタイミング 決算日:2015年10月31日
報告日:決算日から45日以内
※ 決算日から60日を超えない日から随時引き出し可能
10 プロジェクトオーナー関連サイト 有田焼 八右衛門窯
会社ウェブサイト
商品紹介サイト
公式facebookページ
プロジェクト紹介
佐賀県庁ホームページ

プロジェクト その2:
有田焼 セラミック珈琲フィルターファンド

http://www.musicsecurities.com/communityfund/details.php?st=a&fid=1073

本プロジェクトは、
有田焼の「珈琲用セラミックフィルター」を
リニューアル開発することを目的にスタートしました。

調達資金は、新たな製品のデザイン料と、
実際に製造するための型代&素地代に利用されます。

top-1
出典元:セキュリテ(ミュージックセキュリティーズ株式会社)

国/都道府県 国内/佐賀県西松浦郡有田
運営サイト セキュリテ
調達型 ファンド型
業界/セクター 製造業/商品開発・販売
掲載時期 2015/3/31~2015/9/30(募集早期終了)
目標設定額/達成金額/支援者数 3,140,000円 / 3,140,000円 / 100人
一口金額 21,140円
ファンド運営期間 1年間(本匿名組合事業が開始した日の翌月1日から)
収益分配のタイミング 決算日:会計期間開始日より1年後
報告日:決算日から45日以内
※ 決算日から60日を超えない日から随時引き出し可能
10 プロジェクトオーナー関連サイト 久保田稔製陶所 -久右エ門
会社ウェブサイト
プロジェクト紹介
佐賀県庁ホームページ

III.  その他情報源

以下は、佐賀県のクラウドファンディング活用による
有田焼支援についての情報源リンクと、

有田焼に関連して、伝統文化・職人技系の支援にも
クラウドファンディングが積極的に活用されているという事例を
まとめた記事リンクをご紹介します。

1)行政関連

クラウドファンディング利用促進事業補助金 公募実施のお知らせ(佐賀県庁の公式ホームページ)
https://www.pref.saga.lg.jp/web/shigoto/_1076/sk-syoukou/_32982/arita400th/_77512.html

プレスリリース(有田焼創業400年事業関連)
https://www.pref.saga.lg.jp/web/shigoto/_1076/sk-syoukou/_32982/arita400th/_75744.html

事業の進捗状況(有田焼創業400年事業関連)
https://www.pref.saga.lg.jp/web/shigoto/_1076/sk-syoukou/_32982/arita400th/_75782.html

2)有田焼創業400年事業関連

日本磁器誕生・有田焼創業400年事業
http://arita400.com/

ARITA EPISODE 2
http://arita-episode2.jp/ja/

3)伝統技術・職人技系を支援するクラウドファンディングの事例

また、当ラボでは分野や業界ごとに、
クラウドファンディングの事例(成功/失敗 含めて)を
NAVERまとめサイトに随時投稿しています。

本記事で紹介したような、伝統工芸(陶器・漆器・鉄器・木器など)業界のプロジェクトを
クラウドファンディングで調達したような事例を集め、まとめていますので、
是非ご参考にしてみてください。

『日本の伝統「陶器・漆器・鉄器・木器」
クラウドファンディングを活用!事例16選まとめ』
http://matome.naver.jp/odai/2144085083716537801

IV.  まとめ

行政や自治体が主体となって、
クラウドファンディングに取り組むケースは
国内でも徐々に増えてきたように思います。

今回のケースも「有田焼創業400年」という節目に合わせて
新しい資金調達の手段であるクラウドファンディングを活用するのは、
面白い着眼点だなと感じました。

ただ、今回のケースもそうなのかもしれませんが
実際に募集はしたものの事業者側がクラウドファンディングの事を良く分からず
二の足を踏んでしまい、結局あまりプロジェクトが集まらない・・という事も
現状だと起こりうるのではないかと思います。
(本ケースも、こちらで発見できたプロジェクトは上の2点だけでした・・)

当ラボでも「クラウドファンディングって何?」という入門セミナーを現在企画中ですが、
もっと多くの方がクラウドファンディングという素晴らしい仕組みについて理解を深め、
様々な分野や業界で有効活用できるようになれば・・と。

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また、当ブログでも定期的に発信していきますので、今後の記事にもご期待の程を!

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