クラウドファンディング・ラボラトリでは、
ユニークなクラウドファンディング・プロジェクト(案件)を
主観的にではありますがピックアップ。
『一押しプロジェクト事例集』として、ご紹介しています。
今回はアニメ制作会社のプロジェクト。
- エヴァンゲリオン
- ふしぎの海のナディア
- 天元突破グレンラガン
など、国内問わず海外でも高い知名度を誇る
アニメ制作会社「ガイナックス」が、福島県三春町に
海外向けアニメ制作スタジオとアニメミュージアムを
新設する為の資金調達。
当事例は、クラウドファンディングの種類の中で、
「ファンド型」と呼ばれる形式での資金調達です。
「ファンド型」は「購入型」と異なり、比較するとプロジェクト数は少ないですが、
プロジェクトの規模が従来の投資案件に近い形で資金調達が行われ、
金額的にも規模の大きなプロジェクトに利用される形式です。
「購入型」と「ファンド型」の違いについては、以下の過去記事もご参考に。
プロジェクト概要
福島三春町 ガイナックスアニメファンド
http://www.musicsecurities.com/communityfund/details.php?st=a&fid=1010
出典元:セキュリテ(ミュージックセキュリティーズ株式会社) http://www.musicsecurities.com
1 | 国/都道府県 | 国内/福島県三春町 |
2 | 運営サイト | セキュリテ |
3 | 調達型 | ファンド型 |
4 | 業界/セクター | 制作・イベント企画 |
5 | 掲載時期 | 2015/2/27 ~ 2015/8/31(募集早期終了) |
6 | 目標設定額/達成金額/支援者数 | 9,980,000円 / 9,980,000円 / 284人 |
7 | 一口金額 | 21,140円 |
8 | ファンド運営期間 | 2015年5月1日~2018年4月30日 |
9 | 収益分配のタイミング | 第1回決算日 2016年4月30日 第2回決算日 2017年4月30日 第3回決算日 2018年4月30日第2回、第3回の決算日から 60日を超えない日から 随時引き出し可能※第1回の分配金は、 第3回分配時に支払われる |
10 | プロジェクトオーナー関連サイト | 福島ガイナックス |
1)プロジェクト概要と目的
国内で高い知名度&評価のあるガイナックス社が、
海外での既存アニメ放映や新たな海外向けアニメの制作など
海外進出・市場拡大をめざす事が最大の目的です。
資金調達の目的としては、大きく分けて以下の2つ。
- 「地元アニメクリエイターの雇用・育成」
- 「アニメミュージアムの新設」
現在のスタジオ(東京都三鷹)では
国内向けアニメの対応で手いっぱいとなっているため・・
新たなスタジオを設立し、
アニメクリエイターを育成するための場として
福島県三春町を選択。
地元クリエイターの
雇用と育成も行なう計画があるということです。
さらにスタジオ以外にも、「アニメミュージアム」を新設。
アニメ制作過程を体感したり、話題のアニメとコラボした企画展、
声優や著名クリエイターやタレントを招いた企画イベントなどを
実施する計画もあり・・。
この2点の事業(アニメ制作&アニメミュージアム運営)を
スタートさせるための資金調達を、クラウドファンディングするというもの。
調達資金で
「アニメ制作」と「アニメミュージアム運営」を軌道に乗せ、
「アニメ制作受託やオリジナルアニメの版権」や
「アニメミュージアムの入館料や商品販売」などによる収益を見込んでおり、
この事業計画に賛同し、資金提供してもらえる支援者を
クラウドファンディングの「ファンド型」で募集するというプロジェクトです。
ちなみに・・・
募集期限の 2015/8/31 を待たずして、
284人の支援者から9,980,000円の資金調達に成功
早々に募集を終了し、すでに運用を始めています。
2)資金調達の用途について
調達した資金は、
主にアニメ制作関連の人件費にあてる予定。
アニメ制作においては、
コストの中で一番高い割合を占めるのが人件費。
調達した資金を元に、東京から指南役を派遣、
地元の専門学校生や大学生などアニメクリエイターを
雇用&育成していくそうです。
3)リターン(”特典”と”分配金”)設定について
支援額の募集単位は、1口 21,140円。
本プロジェクトでは、
「ファンド型」のクラウドファンディングの典型的な特徴である、
2タイプのリターンが用意されています。
リターンは2つの部分から成り立っていて、
支援者は、通常2タイプ両方のリターンを受け取ることができます。
1.「特典」 (リワード部分) |
i. プロジェクト達成時や開始時など、 早い段階でもらえる「物品」や「権利」 |
2.「分配金」 (元本返済部分+配当部分) |
i. クラウドファンディングで支援した額が、 期間に分けて返済される「元本返済部分」ii. プロジェクトからの収益が 出た場合に得られる「配当部分」 |
「購入型」のプロジェクトと比較すると、ちょっと複雑・・!
具体的に見ていきましょう・・。今回の事例では、
1.「特典」として、1口の支援ごとに・・
(a)「ミュージアムの年間パス2年分x2名分(2万円相当)」
(b)「オリジナルアニメのキャラクター設定資料や原画セット」
のいずれかをもらえるようになっており・・・それに加え・・・
2.「分配金」としては、
ファンド運営期間3年間中に、毎年1回「決算日」があり、
プロジェクトからの収益レベルに応じて、1年目、2年目、3年目と、
分配金(元本返済+配当)が得られるようになっています。
具体的には、3年間にわたって、支援金の返済(1口2万円の支援(投資)金額)が、
売上レベルに応じて3年間にわたって「分割返済」され・・・
プラス・・
「分配計算式」と呼ばれるものがクラウドファンディング開始時に設定されていて、
収益がでれば、いくら位、「配当」をもらえるのか、事前に把握できるようになっています。
が・・・このプロジェクトが掲載されているセキュリテのサイト
http://www.musicsecurities.com/communityfund/details.php?st=i&fid=1010
の中の、「分配シミュレーション」のセクションを見ても・・
分配計算式は乗っていますが、
自分で数字をはじいて計算してみないことには・・・
金額としていくらの配当がもらえるのか、ぱっと見ただけではわかりません!!
ここでは、分配計算式のしくみを説明することは省略しますが・・・
当ラボで計算してみることにします。
「リクープ=損益分岐点」にならなければ、配当金はゼロ
すなわち、支援額の返済部分だけになります。
もし、プロジェクトの事業計画通りうまく売上が上がった場合、
当ラボの計算によれば・・
一口の支援額2万円程度に対し(税金は考慮にいれず)
900円位の配当が貰えます。
これは大体、単純に計算すればですが・・・
4.5%程度の利回りになる計算。
プロジェクトサイトに掲載されている例をみると、
事業計画よりさらに大幅な売り上げがあった場合
9%程度の利回りになりますが・・。
果たして、それだけの売上があがるのか?
いや、まずは損益分岐点(支援金分は回収できるレベル)の売上が達成できるのか?
それはサイトに記載されているリスク要因やらなんやら・・
じっくり読み込む必要がありますが・・・ここではその分析は省略します。
本プロジェクトの成功ポイント
その1:会社自体の知名度
今回のプロジェクトについては、
何と言ってもプロジェクトオーナーである
「ガイナックス」自体の知名度が大きな成功要因の1つです。
ブログやSNSでも話題になりやすいですし、
地元のメディアなどの方からも積極的に取り上げてくれます。
特に「ファンド型」の場合、数年間にわたりプロジェクトを運営し、
収益出すことが求められます。
そして、収益を「支援額に応じた分配金」として
支援者に対して支払うことになるため
事業が上手く行きそうかどうか?も重要な投資(支援)判断基準に。
その点、知名度の高い企業であれば、(例えば、起業したばかりの企業と比較して)
事業の実績もあり、将来性に対する安心感もあるため、支援されやすくなります。
その2:アニメファンが喜ぶ特典
(設定資料&原画、ミュージアム)
本プロジェクトでは、
「ファンド型」のクラウドファンディングの典型的な特徴である、
2タイプのリターン(”特典”と”分配金”)が用意されていて、
前述したように、特典(リワード)としては、
1口の支援ごとに・・
(a)「ミュージアムの年間パス2年分x2名分(2万円相当)」
または、
(b)「オリジナルアニメのキャラクター設定資料や原画セット」
をもらえる、という設定になっていると書きました。
アニメファンにとっては特に、
(b)の特典のような、普通では手に入らない資料や、
制作の様子などが体感できる場は、とても人気があります。
ファンは何を求めているか、どうすればファンに喜んでもらえる特典になるか?
を考え、魅力的な特典を決める事が、資金調達を達成する要になります。
その3:2種類の”特典”設定
また、こちらも特典設定の話になりますが、
異なる支援者の立場であったとしても、
「2種類の特典いずれかを選べる」という点も重要です。
ミュージアムに行けるという特典は、
実際に福島へ足を運べる人でないともらっても意味がないですよね。
なので、現地へ来れない方も考慮し
現地にいて受けることができる特典と平行して、
現地に行けない場合の特典も用意する事で、
より多くの支援者を巻き込むことができます。
その分、より多額のサポートを
得られる可能性も増えることになります。
以前、当ラボでご紹介した以下の事例も、そのあたりを分析しています。
(現地にいる人用 & その場にいなくても享受できるリワード設定について)是非ご参考に。
伝統文化を後世に残したい・・島根県「石見神楽 夜明け舞」存続プロジェクト
その4:支援額(投資)に対してお得感のある特典(リワード)設定
支援額と特典の内容に関しても、注目すべきポイントが・・・。
「ファンド型」クラウドファンディングの特徴なのですが、
支援した見返り(=リワード)として、支援者は:
A:「特典」部分
B:「分配金」部分
と、2種類の見返りを受け取ることができる、と説明しました。
クラウドファンディングで資金調達に成功したとはいえ、
プロジェクト自体はこの先数年間にわたって運営されていくもの・・
必ずしも当初の計画通りに行かないリスクがありますので、
プロジェクトからの「分配金」が、何等かの理由で、出ない可能性もあります。
(すなわち、支援金が、最悪のケースは全額返済されないケースも・・・)
このプロジェクトは一口の支援額が21,140円で、
比較的早期の段階でもらえる特典である「ミュージアム年間パス」は、
価値としては2万円相当。
どういうことかというと・・・、
例えば、支援者がファンで、自分が支援した金額相当の特典を、
ある程度早い段階で受け取れることができる(Aの特典部分)があれば、
万が一将来、プロジェクト事業からの収益が見込めなくなっても、
すでにAの部分で、投資した資金の大部分を回収したようなもの・・・
と判断して、支援するのが心理ではないでしょうか。
(B部分の分配金がたとえゼロになったとしても、損をした感がない・・とでもいうべきでしょうか?)
ファンであれば、見返りに価値を見出すことができ、
実際の支援金額よりも、リターンとしてお得感がある点が、
支援者を多く惹きつけた要因の1つと思われます。
その5:福島の復興を応援するストーリー
今回のスタジオは、
福島県三春町の廃校になった旧校舎を再利用する企画です。
また、人材に関しても地元(福島中心)の学生などを雇用し、
東京本社から指導員を派遣して育成していく方針を取っています。
こうした点が「福島の復興」というストーリーにも繋がり、
地元メディアや企業との連携によりプロジェクトの認知度も高まり、
結果として、多くの支援者と資金を集めることに成功しています。
<以下、地元メディアや企業の関連ニュース>
福島ガイナックス、三春町と企業立地協定 (日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO82116800Z10C15A1L01000/
エヴァ制作「ガイナックス」三春町にスタジオ(河北新報)
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201501/20150120_65014.html
福島の地銀「東邦銀行」のCMを、ガイナックスが製作(東北銀行公式HP)
http://www.tohobank.co.jp/news/20150227_003555.html
まとめ
以上、「ファンド型」の事例紹介はいかがだったでしょうか?
今回の事例に関しては、
もともとプロジェクトオーナー企業自体の
知名度が高かった事も成功要因の1つですが・・
「ファンド型」に特有の、特典と分配金を組み合わせたリワード設定、
地元の支援も得られるストーリーなど、
参考になる部分も多いと思います。
実は2015年6月に、我々クラウドファンディング・ラボラトリのスタッフも
ラボ活動の一環で福島を訪問したのですが、
残念ながら・・三春町には行くことができず・・
次回行く際は現地のミュージアムを是非、
視察してみたいと思います!
また、クラウドファンディングでの資金調達は成功したとはいえ、
支援した資金の行方はどうなるのか??
プロジェクト自体、この先数年間の運営次第でどのような展開を遂げるのか・・・
売上が大幅に当初プランを上回るかもしれませんし・・・!!
この先途中経過を、当ラボでもまた、事例分析の記事したいと思います。
(by おるず)